親の介護と相続関係は複雑で、介護をしたからといって必ずしも相続で有利になるとは限りません。一般的には、親の介護は親族間の扶養義務に該当し、法律上は介護を理由に相続分が増えることはありません。しかし、特定の条件を満たす場合、「寄与分」という救済制度に基づき、介護が相続において考慮されることがあります。この寄与分とは、相続人が療養看護などにより亡くなった人の財産の維持・増加に貢献した場合、その貢献度合いによって遺産を多めにもらえるという制度です(民法904条の2)。
寄与分は、親の介護の苦労に報いる手段の一つに過ぎず、これまでは相続人のみに認められていました。しかし、実際には被相続人の長男嫁などの相続人以外の親族が被相続人の介護その他身の回りの世話をすることが多く、その不公平を是正するため2019年7月から特別寄与料の制度が民法1050条の改正で導入されました。
寄与分と特別寄与料の違いは対象者で、寄与分は法定相続人だけが対象で特別寄与料は法定相続人以外の親族(6新等以内の血族や配偶者、3新等以内の姻族等の条件あり)が対象になります。特別寄与料は、「被相続人からの遺贈」という扱いになり、基本的に被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の方が対象となるため、相続税額の2割加算の対象になります。
親が亡くなってしまってからでは、相続のためにできることは限られており遺産を多く受け取れる保証はありません。親と事前に、死後のことで話し合うのはどうしても気が引けますが、後悔のない介護生活を送るためにも予め家族間でしっかり話し合われることをお勧めします。
【元・ケアマネの視点】
ケアマネの経験からも、介護やそのサポートに関わる時間と労力を公平に評価するためには、家族間での理解や協力は欠かせません。特に、在宅介護を主体とする現・介護保険制度のもとでは、介護者の日常的なサポートがどれほどの負担になっているかを具体的に理解しておくことが、遺産分割時の公平な評価に繋がります。
このように、遺産分割で「寄与分」や「特別寄与料」を検討する際には、家族同士の話し合いだけでうまくいけば良いのですが、場合によっては専門家(例えば、弁護士や司法書士等)を交えた方がうまくいくこともあります。ケアマネとして実務に携わってきた観点から、スムーズな遺産分割を実施するためには「介護に携わってきた方の労力と時間への配慮」がポイントになるのではないでしょうか。